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私の研究について

 全身持久力が高い人では、四肢の血管や大動脈がしなやかで、拡張しやすい特徴があります。一方、全身持久力が高い人では脳の血管は同じように拡張しやすい傾向にあるのか?、身体的なトレーニングにより脳の血管は拡張しやすくなるのか?という課題に私は取り組んでいます。さらに、加齢や生活習慣病では血管は硬くなります。動脈硬化は脳血管疾患や認知症の要因の一つと考えられていますが、身体的なトレーニングに伴う末梢の血管の機能改善とともに脳の血管も拡張しやすくなるのか?、身体的なトレーニングに伴う生活習慣病の改善とともに脳の血管も拡張しやすくなるのか?という課題に取り組んでいます。これらの研究から、さらに身体的トレーニングがどのように脳血管疾患や認知症の発症リスクを低下させ、認知症の予防に役立っているのかを明らかとする研究を展開しています。

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私の研究に関連する国内外の研究動向及び位置づけ

 本邦では,経済成長にともなう生活の“自動化”が進み,国民全体が身体的に不活動傾向に陥り,身体的な不活動性がメタボリック症候群のような生活習慣病の原因の一つとなっています.メタボリック症候群は,動脈硬化を誘発し,脳血管疾患や心血管疾患の原因となります.これらの血管疾患は,認知症や寝たきりの原因ともなり,動脈硬化を予防改善することが,血管疾患だけではなく,認知症や寝たきりの危険性を低下させることになると考えられます.習慣的な身体運動は,若年者をはじめ動脈硬化患者においても,血管の拡張機能を高め,動脈硬化の予防・改善に寄与することが国内外の多くの研究によって明らかにされてきました.しかし,これまで

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行われてきた多くの研究は,上腕動脈や大腿動脈等の四肢の血管を評価対象としたものであり,脳血管疾患や認知症と関連する脳の血管に焦点をあて,その機能を直接観察したものではありません.運動と動脈硬化,運動と認知機能のように二変数間の関連性は明らかにされてきましたが,生活習慣病だけでなく超高齢化社会になり認知症患者数も増加していることから,将来的には,高齢者において運動と動脈硬化と認知機能との関連性について明らかにする必要があります.したがって、脳血管疾患や認知症と関連する脳血管の拡張反応性を直接評価し,体力との関連性や習慣的な運動の効果、そして認知機能との関連性を明らかにする研究課題に取り組んでいます.

 

私の研究成果と着想に至った経緯

 脳の血管は動脈酸素分圧及び二酸化炭素分圧の変化に対して特異的に敏感に反応し,例えば,高地における低酸素環境では脳血流の増加が起こり,呼吸頻度抑制による二酸化炭素分圧の上昇は脳の血管拡張・血流増加を引き起こします(Ide et al. J. Appl. Physiol. 2004,Ide et al. J. Physiol. 2007).これまで,動脈二酸化炭素分圧の上昇による脳血管の反応性は,高齢者,高脂血症,高血圧,動脈硬化により低下することが報告されています.私は,この動脈二酸化炭素分圧の上昇に対する脳血管の感受性により,脳血管の拡張性を直接評価することが可能であると考え,脳の血管拡張性に対する身

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体的運動による影響を将来的に検証することを見据え,その生理学的な背景について研究を行ってきました(Ide et al. J Physiol. 2007).自転車エルゴメーターによるトレーニングでは,その運動に直接関係しない上腕の血管拡張機能が改善することが報告されていることから(Birk et al. 2012),上腕動脈は下肢の運動にともなう血行動態に影響を受けており,同様に脳の血管も影響を受けていると考えられ,身体的トレーニングにより脳の血管の拡張機能が改善する可能性も考えられます.私は,自転車エルゴメーターによる動的運動中の局所の脳血流速度は,心拍出量の増加にともない増加することを確認しています(Ide et al. Acta Physiologica Scand. 1998, Ide et al. Clin Physiol. 1999, Ide et al. J Appl. Physiol. 1999).このことから,自転車運動のような大きな筋群を用いた運動中は,脳の血管に対しては少なくとも一時的なストレスがかかっていることが推察され,このストレスに対する適応として脳血管の拡張機能が改善するとの仮説が成立します.疫学研究では習慣的な運動が脳血管疾患の抑制因子となることが報告されており,脳の血管拡張機能が改善する可能性も推察されます.

 

​低酸素に対する血管拡張反応の生理学的機序

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 血管の拡張には血管内皮細胞の機能が重要な役割をし、生活習慣病の患者では何らかのメカニズムで血管内皮機能が低下しています。この血管内皮細胞から一酸化窒素(Nitric Oxide; NO)が生成され、血管平滑筋を緩め血管が拡張し、血流が増大しますが、生活習慣病患者では血管内皮機能が低下し、NOの生成が低下するので、血管が硬くなります。血管内皮機能の評価には、虚血後の再灌流による方法が用いられますが、脳を虚血にすることはできません。そこで、私は二酸化炭素や低酸素に注目しました。特に、低酸素刺激に対する脳の血管の拡張反応の生理学的メカニズムには一酸化窒素が関与していると想定されています(上図)。私は、一酸化窒素生成酵素の抑制剤を用いて、この低酸素刺激に対する脳血流の増大がこの薬剤により低下することを確認しています(Ide et al. J. Physiol. 2007).

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